マイホームを購入する際、多くの人が利用する住宅ローン。長期にわたる契約で借り入れる金額も大きく、審査や返済について不安に感じる人も少なくありません。この記事では、安心して住宅ローンを利用できるよう、多くの人が不安を抱きやすいポイントと、その解消法について解説します。
【目次】
住宅ローンの審査についてよくある不安と解消法
住宅ローンの返済についてよくある不安と解消法
住宅ローンについてのその他の不安と解消法
住宅ローンの不安を解消するには「理解」「計画」「備え」がポイント
住宅ローンの審査についてよくある不安と解消法
住宅ローン審査では、希望する金額の融資を受けられるのか、転職したばかりでも審査に通るのか、自身の信用情報に問題はないかといった点に不安を感じる人が多いようです。
希望額で融資を受けられるのか
住宅ローンの融資上限額は、申込者の属性や購入する物件の担保価値などの情報をもとに、金融機関が総合的に判断して決定します。そのため、必ずしも希望額の融資を受けられるわけではありません。
融資額に影響する申込者の属性には、年収や年齢、勤務形態、勤続年数、勤務先の情報などがあります。自身がいくら借りられるかは、年収に対する年間返済額の割合である「返済負担率(返済比率)」から大まかに把握できます。
例えば【フラット35】における返済負担率の条件は、年収400万円未満で30%以下、400万円以上で35%以下となっています。まずは借り入れを希望する金融機関が定める返済負担率の基準から、借入可能額を計算してみましょう。その結果次第では、利用する金融機関や商品を変更したほうが良いケースもあります。
民間金融機関の住宅ローン審査では、実際に適用される金利ではなく、審査金利を用いて計算した年間返済額により、返済負担率や融資上限額(借入可能額)が判定されます。2021年7月現在の金利水準では、審査金利の相場は3〜4%程度です。金利が高くなれば年間返済額も大きくなるため、年収が同じでも、適用金利で審査される【フラット35】などに比べて借入可能額は低くなる傾向があります。
【共通条件】
年収600万円、ローン借入条件:期間35年/元利均等返済、他の借入金なし
【融資上限額の目安】
<審査金利1.5%の場合>5,715万円
<審査金利4.0%の場合>3,952万円
※住宅金融支援機構ローンシミュレーションにより筆者試算
年間返済額には、自動車ローンやカードローンなど他の借入金の返済額も含まれるため、これらの借り入れがある場合は住宅ローンの借入可能額が低くなります。借入可能額を増やすには、事前に完済するか、借入額をなるべく減らす対策が有効です。
転職したばかりでも審査に通るのか
勤続年数は住宅ローン融資の申し込み条件となっている場合もあり、多くの金融機関で審査の際に考慮される指標の一つです。転職直後は収入が安定していないとみなされ、審査結果に影響するおそれがあります。
勤続年数1年以上を条件としている金融機関が多いため、転職後1年、できれば3年以上経ってから申し込む、あるいは勤続年数が条件となっていない金融機関・商品(【フラット35】等)を選ぶと良いでしょう。
<住宅ローン審査における勤続年数の条件(カッコ内は回答機関数(n)に占める割合)>
勤続年数を審査で考慮する金融機関数(n=1,141) | 具体的な条件 | |||
1年以上 | 2年以上 | 3年以上 | その他 | |
1,087 (95.3%) |
654
(57.3%) |
57
(5.0%) |
195
(17.1%) |
221
(19.4%) |
出所:国土交通省「令和2年度 民間住宅ローンの実態に関する調査 結果報告書」 を基に筆者作成
より安定した職業へのキャリアアップや収入アップを伴う転職は、勤続年数が短くても審査に影響しないこともあります。この点は金融機関の担当者にしっかりアピールしましょう。キャリアアップや収入アップにつながったことを客観的な資料で示すことがポイントです。
個人信用情報に問題はないか
個人信用情報とは、消費者金融や各種ローンの返済、クレジットカードの支払いなどに関する情報のことです。個人の債務内容や支払状況、延滞・債務整理(任意整理、自己破産など)の履歴は、指定個人信用情報機関に一定期間記録されています。
個人信用情報に長期の延滞や債務整理の履歴がある、いわゆる「ブラック」状態では住宅ローンの審査に通りません。ブラック状態でなくても、支払いの遅れなどが複数回あると、審査結果に影響するおそれがあります。
携帯やスマートフォンの分割払い(割賦契約)の遅れなど、本人も気づかないうちに個人信用情報に傷が付いているケースもあります。審査に申し込む前に、指定個人信用情報機関に開示請求を行い、自分の個人信用情報を確認しておくと安心です。
▼指定個人信用情報機関の種類
- 株式会社シー・アイ・シー(CIC)
- 株式会社日本信用情報機構(JICC)
- 全国銀行個人信用情報センター(KSC)
住宅ローンの返済についてよくある不安と解消法
住宅ローンの借入後には、返済を続けられるのか、自分に万一があった場合の家族の負担、金利上昇による返済額の増加などに不安を感じる人が多いようです。
将来的に滞納せずに返済を続けられるのか
住宅ローンを利用する際は、無理なく返済できる金額で借りること、子供の教育資金や結婚資金、車の買い替えなど、希望するライフプランにおいて住宅ローン以外に想定される支出・費用をふまえて資金計画を立てることがポイントです。
賃貸住宅の家賃と同じ感覚でローン返済額を設定してしまうと、固定資産税や建物の火災保険料、修繕費用などの費用が加算され、これまでよりも負担が重くなってしまうため注意しましょう。
金融機関が定める返済負担率はあくまで「借りられる金額」の目安であり、「無理なく返済できる金額」の目安は、一般的に20~25%程度といわれています。
リストラや減給、病気やケガによる休職などで収入が減少しても返済に行き詰まることのないよう、月々の返済額には余裕を持たせ、頭金を多少減らしてでも預貯金などでローン返済額を含む半年〜1年分の生活費を確保しておきたいところです。
返済の猶予や減額、借入期間の延長など、返済が困難になったときの対処法についても確認しておきましょう。返済が難しくなってしまったときは、「滞納する前」に借入先の金融機関に相談し、今後の返済について対応を話し合うことが大切です。
自分に万一のことがあった場合に、家族に返済の負担がのしかからないか
多くの金融機関では、契約者に万一のことが起きた際に、住宅ローンの残債に相当する保険金が支払われる団体信用生命保険(以下、団信)への加入を融資の条件としています。団信に加入していれば、契約者に万一があっても遺族に返済の負担は残りません。
ただし、団信では遺族の生活費や、ローン完済後もかかる固定資産税、修繕・維持費、管理費(マンションの場合)までは保障されません。そのため、生命保険に加入するといった備えは必要といえます。
将来変動金利の金利が上がって返済額が増えないか
変動金利型の住宅ローンを選んだ場合、適用金利が上昇し、返済額が増加するおそれがあります。
金利の変動リスクを取りたくない場合には、全期間固定金利型の住宅ローンを選ぶと良いでしょう。ただし、金利があまり上昇しなければ、変動金利型に比べて毎月の返済額や総返済額は大きくなります。
金利上昇リスクには、適用金利の低い変動金利を利用して早期に元金の返済を進め、金利が上昇したときには繰り上げ返済して返済額の増加を抑える、あるいは返済期間を短縮して完済時期を早めるといった対策もあります。
住宅ローンについてのその他の不安と解消法
住宅ローンの審査や返済のほかにも、次のような不安がよく挙げられます。
保証人をお願いできる人がいない
ほとんどの住宅ローンでは、金融機関が指定する保証会社による保証を受けます。そのため、保証人になってくれる人がいなくても基本的に心配はありません。
ただし、収入合算や親子リレー返済、ペアローンを利用するときや、金融機関の判断で、連帯債務者や連帯保証人が必要になるケースもあります。
諸費用分の現金を用意できない
住宅ローンの契約時には、印紙税やローン保証料、融資事務手数料、火災保険料、登記費用など様々な諸費用がかかります。これらの諸費用は契約時に現金で支払うのが一般的です。
諸費用分の現金をすぐに用意できない場合、住宅ローンの借入額に諸費用も含める方法(オーバーローン)があります。住宅購入のタイミングを逃さないためには有効な選択肢といえます。
ただし、借入額が増えることで返済額が増える、物件を売却してもローンを完済できない、適用金利が高くなるといったデメリットもあります。また、必ずしもオーバーローンが認められるわけではありません。
諸費用や頭金は現金で用意するのが基本であり、オーバーローンの利用は慎重に判断すべきです。
住宅ローンの不安を解消するには「理解」「計画」「備え」がポイント
住宅ローンに対する不安は、多かれ少なかれ誰しもが抱くものです。そのような不安を解消し、安心して住宅ローンを利用するには、仕組みの理解と、無理のない資金計画や返済計画の設定、想定されるリスクに対する備えが大切です。
自分で判断が難しければうやむやにせず、不動産会社や金融機関の担当者のほか、住宅ローンに精通したファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談し、不安を解消した上で利用しましょう。
竹国 弘城(たけくに ひろき)/1級FP技能士、 CFP認定者
証券会社、生損保総合代理店での勤務を経てファイナンシャルプランナー(FP)として独立。相談者の利益を第一に考え、自分のお金の問題に自分自身で対処できるようになるためのコンサルティングや執筆活動などを行う。