勤続年数は住宅ローンにどう影響する?転職後に住宅ローンを組む方法

住宅ローンを組む場合、かつては勤続年数が3年以上ないと審査に通らないと言われることもありました。しかし近年は金融機関の競争や、転職によりキャリアアップを図る人が増えていることもあり、勤続年数が短くても住宅ローンを利用しやすくなっています。今回は勤続年数が住宅ローンにどう影響するのか、転職後に住宅ローンを組むにはどのような方法があるのかをご紹介します。

【目次】
勤続年数が短いと住宅ローンを組めない?
勤続年数が短い人が住宅ローンを利用する方法
住宅ローン申し込み時の勤続年数に関するよくある質問
金融機関・商品の選択次第で、転職直後でも住宅ローンを組める可能性はある

勤続年数が短いと住宅ローンを組めない?

勤続年数は、住宅ローンの事前審査の段階で多くの金融機関がチェックする項目であり、勤続年数が短いと審査で不利になるおそれがあります。

勤続年数のみで融資の可否は判断されない

住宅ローン審査では、借入時・完済時の年齢や健康状態、対象物件の担保評価、年収、返済負担率、個人信用情報の滞納の履歴などから、融資申込者の返済能力や融資の可否が総合的に判断されます。勤続年数もほとんどの金融機関が審査項目としており、勤続年数が短いと収入の安定性や継続性の面で評価が下がるおそれがあります。

<参考:融資を行う際に考慮する項目(考慮する金融機関の割合が高い項目)>

審査項目 審査で考慮する金融機関の割合
完済時年齢 99.0%
健康状態 98.5%
担保評価 98.2%
借り入時年齢 96.8%
年収 95.7%
勤続年数 95.6%
連帯保証 94.2%
金融機関の営業エリア 90.6%
返済負担率 89.2%

参考:「令和元年度 民間住宅ローンの実態に関する調査 結果報告書」(国土交通省)

しかし、近年は終身雇用が当たり前ではなくなりました。転職をしながらキャリアアップしていく人も増えており、勤続年数よりも実際の返済能力(年収)が重視される傾向が強まっているといえるでしょう。

そのため、勤続年数が短いからといって必ずしも住宅ローンが組めないわけではありませんし、勤続年数が長くても収入が低いなど、他の要因で審査に通らないこともあります。

勤続年数は1年以上が目安

 国土交通省の「令和元年度 民間住宅ローンの実態に関する調査 結果報告書」によると、勤続年数1年以上を求める金融機関が約6割、3年以上を求める金融機関も約2割あります。

<勤続年数の審査基準>

勤続年数 金融機関数(割合)
※回答数1,138
1年以上 701(約61.6%)
2年以上 54(約4.7%)
3年以上 234(約20.6%)
その他 212(約18.6%)

参考:「令和元年度 民間住宅ローンの実態に関する調査 結果報告書」(国土交通省)

申込条件として勤続年数の基準が明記されている場合、基準を満たしていない金融機関、商品には原則申込めないため、勤続年数が短いほど、利用できる金融機関や商品の選択肢は少なくなってしまいます。金融機関によって審査基準は異なりますが、勤続年数は1年以上、できれば3年以上あることが望ましいといえます。

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勤続年数の確認は健康保険証の資格取得日で行われる

住宅ローンの審査における勤続年数の確認は、一般的に健康保険証に記載された資格取得日で行われます。申込書には入社年月または就職年月を記載し、その証明書類として健康保険証の写しを提出する形です。

このとき、申込書に記載した入社年月と健康保険証に記載された資格取得日が異なり、差し戻される不備がよく発生しています。

入社年月と資格取得日が異なるケースとしては、単純な記入ミスのほか、グループ企業などに転籍・出向した場合や、入社後に健康保険組合の変更があった場合などが考えられます。このようなケースでは、審査に申込む段階でその理由を金融機関に告知が必要です。

勤続年数は原則として健康保険証の資格取得日を基準に計算されますが、告知により継続して勤務していると認められれば、入社年月から勤続年数を計算して審査を受けられる可能性があります。告知を忘れると不備になったり、虚偽申告とみなされたりするおそれがあるため注意しましょう。

勤続年数が短い人が住宅ローンを利用する方法

勤続年数が短い人であっても、年収など他の要件を満たしていれば、次のような方法で住宅ローンを利用できる可能性があります。

勤続年数を申し込み条件にしていない金融機関や商品を探す

勤続年数に関する条件は、金融機関によってさまざまであり、近年は勤続年数を申込み条件や審査項目にしていない金融機関・商品も増えています。このような金融機関・商品であれば、勤続年数が短くても、他の要件を満たすことで住宅ローンを利用できます。勤続年数を申込み条件として明記していなくても、審査では考慮される金融機関もあり、その点は注意しなければなりません。

全期間固定金利型の住宅ローン【フラット35】には勤続年数の条件がなく、返済負担率や対象物件の要件、年齢などの要件を満たせば申込みができます。

前職の勤続年数を加算できないか相談する

近年はキャリアアップのための転職も増えており、同業種や同業界への転職など、これまでの経験やスキルに一貫性のある転職であれば、前職の勤続年数を加算(合算)して審査してもらえるケースがあります。勤続年数の加算を認めるかは金融機関の判断によるため、まずは融資担当者などに相談してみましょう。

年収が前職よりも上がっていれば、審査での評価は高くなる可能性があります。転職後に収入がアップしたことを証明するため、転職先の年収が記載された雇用契約書や採用通知書、年収見込証明書、給与明細といった書類があれば、前職の源泉徴収票などと併せて提出すると良いでしょう。

年収の安定性や貯蓄額をアピールする

非正規社員から正社員や公務員になったケースや中小企業から大手企業に転職した場合などは、収入の安定性が高まり、審査で有利に働く可能性があります。医師や弁護士などの有力資格を持つ人は金融機関からの評価が高く、勤続年数が短くても比較的審査に通りやすい傾向があります。

そのほか、多くの預金・資産を保有している場合や、購入を希望する住宅価格に対し借入額が少ないケースでも、金融機関から返済余力があると判断され、審査では有利になる可能性があります。

審査を通過できるかは実際に審査を受けてみなければ分かりません。しかし、審査に通る可能性を高めるには、自分の収入や預金額を証明する書類を提出したり、頭金を増やしたりして、収入の安定性や貯蓄額(資産額)など、アピールできるポイントがあれば積極的に主張することが大切です。

住宅ローン申し込み時の勤続年数に関するよくある質問

勤続年数の数え方や住宅ローン審査へ与える影響は、その状況により違ってきます。ここではよくある質問について4点ご紹介します。

会社都合による転職の場合、勤続年数はどう評価される?

倒産やリストラなど会社都合による転職であったとしても、基本的には通常の転職と同様に扱われます。

会社都合により転職を余儀なくされた場合には、住宅購入は一旦保留し、まず仕事や生活を整え、住宅を購入しても問題ないか、無理なくローンを返済していけるのかを冷静に考えることをおすすめします。

新卒1年目でも住宅ローンは利用できる?

申込条件に勤続年数の定めがなければ、新卒1年目でも住宅ローンに申込めます。

ただし、融資の可否は年収や返済負担率、対象物件の要件などから総合的に判断されるため、申込めるからといって、必ずしも住宅ローンを利用できるわけではありません。

住宅ローン審査では、通常年収を証明する書類の提出が必要となりますが、新卒1年目では年収を証明できる源泉徴収票などがありません。この場合、例えば【フラット35】では、給与明細を参考に支払対象期間に応じて年収に換算した「みなし年収」により審査が行われます。

個人事業主の勤続年数はどうカウントする?

個人事業主やフリーランスの場合、営業年数が勤続年数となります。

個人事業主の住宅ローンの審査では、収入を証明する書類として、直近3期分の納税申告書や確定申告書の提出を求められることが一般的です。個人事業主は収入が不安定と見られやすく、会社員に比べて審査は厳しい傾向があります。

書類を提出した期間に赤字決算の年があると、収入が安定していないと判断されやすいため、3期(収入を確認される期間分)連続で黒字決算となってから申込むのが基本です。まだ一度も確定申告をしていない場合は、収入を証明できないため、原則住宅ローンは利用できません。

住宅購入予定の人で独立を検討している場合には、住宅ローンを組んでから独立するのが賢明でしょう。ただし、独立後に収入が不安定になり、返済できなくなっては本末転倒です。返済に支障のない収入の目処が立ってから独立する、収入の変動に対応できるだけの手元資金を確保しておくなど、計画と準備がより重要になります。

医師や士業なら転職・独立して間がなくても住宅ローンを組める?

医師・弁護士・税理士などの士業は、住宅ローンの審査において有利とされている職業です。そのため、転職で勤務先が変わり、間がない場合も、一般的な職業の人にくらべると審査に通りやすい傾向があります。

ただし、正社員としての転職ではなく、独立・開業した場合は事情が異なります。いくら収入額自体に問題はなくても、収入の安定性を証明するのが難しくなるからです。開業後には、少なくとも1期以上の実績をあげてから申込む、あるいは独立・開業前に申込むのが賢明でしょう。

転籍・出向した場合、勤続年数はリセットされる?

 グループ会社や関連会社への転籍・出向であれば、勤続年数の引き継ぎが認められる可能性があります。金融機関によって扱いは異なるため、申込み前に確認しましょう。

転籍・出向によって年収が下がった場合には、住宅ローン審査に影響するおそれがあります。

連帯保証人の勤続年数も審査に影響する?

連帯保証人も債務者同様に審査されるため、勤続年数が審査に影響する可能性があります。住宅ローンは保証会社の保証を受けるのが基本であり、連帯保証人は原則不要です。ただし、次のようなケースでは例外的に連帯保証人を立てる必要があります。

  • ペアローンを組む場合
  • 収入合算をする場合
  • 土地や建物が共有名義の場合
  • 担保提供者が債務者(住宅ローンの借入人)以外の場合(担保となる敷地が親名義の場合など)
  • その他、金融機関に連帯保証人が必要だと判断された場合

債務者本人の勤続年数が短い場合、金融機関に連帯保証人を求められる可能性は高くなります。

連帯保証人は、住宅ローンの債務者本人と同じ返済義務を負います。そのため、返済能力があることが原則であり、債務者と同様に審査されます。審査で返済能力が認められなければ連帯保証人にはなれず、住宅ローン自体の審査も通りません。

嘘の勤続年数を申告したらバレる?

勤続年数は健康保険証の資格取得日で確認されるため、嘘の申告をすればすぐにバレます。

住宅ローンの申込書には、入社年月を記入します。このとき健康保険証の資格取得日と異なる内容を記載すると不備になります。申込条件の勤続年数に足りない、あるいは少しでも審査に有利になればと思っても、事実と異なる申告をしてはいけません。

虚偽申告をしたとみなされると、審査では大きなマイナスです。正しく申告していれば通ったローンも通らなくなるおそれもありますので、単純な記入ミスであれば、気付いた時点ですぐに修正してください。

金融機関・商品の選択次第で、転職直後でも住宅ローンを組める可能性はある

住宅ローン審査における勤続年数のハードルは近年低くなっており、金融機関・商品の選択次第で、転職直後など勤続年数が短い人でも住宅ローンを組みやすくなっています。とはいえ勤続年数の基準を満たせず選択肢が限られてしまったり、審査で不利になったりするケースもあります。自己都合での転職を検討している場合は、住宅購入の時期も踏まえて計画的に行いましょう。特に会社員から自営業になると審査は厳しくなるおそれがあるため注意が必要です。

監修

竹国 弘城(たけくに ひろき)/1級FP技能士、 CFP認定者

証券会社、生損保総合代理店での勤務を経てファイナンシャルプランナー(FP)として独立。相談者の利益を第一に考え、自分のお金の問題に自分自身で対処できるようになるためのコンサルティングや執筆活動などを行う。

 

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