「子どもが独立したのでもっと小さな家に住みたい」「定年退職したので田舎暮らしがしたい」など、生活の変化にともなって住宅の住み替えを考える人は多くいます。
しかし、現在の自宅に住宅ローンが残っていると、売却しようにも住宅ローンを貸した金融機関の担保となる「抵当権付き」の不動産となり、売却は簡単ではありません。
そこで、自宅の住み替えをサポートする「機構住みかえ支援ローン」が利用できれば、現在の自宅を第三者に貸し出すことで新しい家に住み替えられます。その仕組みやメリットについて解説します。
【目次】
フラット35の「機構住みかえ支援ローン」とは?
「機構住みかえ支援ローン」のメリット3選
「機構住みかえ支援ローン」のデメリット
「機構住みかえ支援ローン」の利用の流れ
住み替え時にも安心のフラット35の制度をうまく活用しよう
フラット35の「機構住みかえ支援ローン」とは?
「機構住みかえ支援ローン」は、独立行政法人「住宅金融支援機構」などが運営する「フラット35」の商品の一つで、現在の自宅を貸し出し、新たに居住用住宅を取得するための住宅ローンです。自宅の貸し出しは、一般社団法人「移住・住みかえ支援機構(JTI)」の「マイホーム借上げ制度」の利用が前提となります。
通常、返済途中の住宅ローンがあるなかで新たな住宅ローンを組む場合、二重ローンになるため融資の審査が厳しくなります。しかし、この制度を利用すると「第三者に貸し出す賃料」で現在の住宅ローン返済のめどが立つという仕組みです。
JTIのマイホーム借上げ制度とは
「マイホーム借上げ制度」とは、一般社団法人「移住・住みかえ支援機構(JTI)」が運営する制度で、オーナー所有の住宅をJTIが借り上げて、希望する第三者に貸し出し、オーナーの安定した賃料収入を保証するものです。
50歳以上の人が利用する場合の貸し出す家の条件は、以下のとおりです。
オーナーが単独または共同所有する日本国内にある住宅
建物診断が実施されている住宅(築25年超の場合)
建物診断の結果、必要な補強・改修工事が行われている住宅
居住用の住宅
50歳未満の人が利用する場合の条件は、上記条件に加えて、以下のいずれかに該当する必要があります。
JTIが認定する住宅を所有する人
(「かせるストック証明書(移住・住みかえ支援適合住宅証明書)」が発行されている)
相続した空き家を所有する人
生前贈与した住宅を所有する人
急な減収で住宅ローンの返済が厳しくなった人
定期借地の住宅を所有する人
海外に転勤が決まった人
起業支援金・移住支援金を受け取る予定がある人
「マイホーム借上げ制度」は、子どもの独立などでそれまで住んでいた家が広過ぎるといったシニア世代を対象としているため、基本的には50歳以上の人を対象としています。
しかし、長い人生のなかで起こりうる相続や贈与、減収、転勤なども想定し、50歳未満であっても利用することができます。
特に、JTIが審査・認定する「かせるストック(移住・住みかえ支援適合住宅)」は、新築購入時に建物診断をすることで、いざ制度を利用したいと思った際にスムーズに手続きができるというのが特徴です。
「マイホーム借上げ制度」を利用することで、ライフプランの変化によって現在の住宅から住み替えする場合、現在の住宅をスムーズに資産化できます。
機構住みかえ支援ローンの利用条件
「機構住みかえ支援ローン」とは、住み替えを検討している人に向けた、最長35年間全期間固定金利の住宅ローンです。しかし、ローンを利用するには一般社団法人「移住・住みかえ支援機構(JTI)」の「マイホーム借上げ制度」を利用できることが前提となっています。
機構住み替え支援ローンの利用条件は以下の3点です。
日本国籍・永住許可・特別永住者
JTIの「マイホーム借上げ制度」を利用できること
原則として、申し込み時の年齢が満70歳未満であること(親子リレー返済利用の場合を除く)
また、返済負担率(年収に対する1年間のローン返済額の割合)についての基準は以下のとおりです。
年収400万円未満 | 30%以下 |
年収400万円以上 | 35%以下 |
返済負担率の計算には新たに組むフラット35以外の現在の住宅ローン、その他のローンを含めます。ただし、「マイホーム借上げ制度」でJTIが保証する賃料から算定される賃料評価額は差し引けます。
「機構住みかえ支援ローン」のメリット3選
ここからは、機構住みかえ支援ローンの主なメリットを3つ紹介します。
メリット1:住宅貸し出しに関する全業務をJTIが担ってくれる
「機構住みかえ支援ローン」利用時の前提となる「マイホーム借上げ制度」では、住み替え前の家の貸し出しについては、「移住・住みかえ支援機構(JTI)」が全業務を担当してくれます。入居者の募集も必要ないため、入居者とオーナーの直接の接点はありません。家賃の未払いや家を汚されるなどのトラブルに関しては、オーナーに代わってJTIが対応してくれます。
メリット2:「我が家」として再び戻ることもできる
「マイホーム借上げ制度」では、契約期間を定めて第三者に貸し出す「定期借家契約(ていき・しゃっかけいやく)」の終了後に自宅へ戻ることもできます。
賃貸住宅など借家契約の多くは「普通借家契約」で、一般的な契約期間は2年間です。その場合、貸主からの期間満了後の更新拒絶・中途解約には正当な理由が必要なため、入居者が退去するまでは貸し出した自宅がいつ戻るかはわかりません。
マイホーム借上げ制度は、3年以上の定期借家契約が設定されるため、契約期間満了後は確実に自宅を明け渡してもらえます。入居者から立ち退き料を請求されたりする心配もありません。そのため、定期借家契約終了後に再び住み替え前の住宅に戻ったり、売却したりすることも可能です。
入居者が期間満了後に引き続き居住を希望する場合、オーナーが同意すれば再契約を結ぶことになります。
メリット3:空き家・空室になっても規定賃料が保証される
「マイホーム借上げ制度」では1人目の入居者が決まってからは、空室が発生しても定められた賃料を受け取れます。空室でも賃料を受け取れるため、住み替え前の家のローンの支払いが滞る心配がありません。
JTIからオーナーへの「空室保証家賃」の支払いができなくなった場合でも国の基金が用意されているため、安心して利用できます。ただし、最初の入居者が入居するまでは賃料を受け取れないという条件は把握しておく必要があります。
「空室保証家賃」額は、入居時の家賃より低い金額に設定されます。家賃は周辺地域の相場や建物の状況をもとに協賛事業者が査定し、JTIが決定します。
「機構住みかえ支援ローン」のデメリット
機構住みかえ支援ローンの主なデメリットを2つ紹介します。
デメリット:初期費用が発生する
「機構住みかえ支援ローン」の利用要件として、建物診断の実施があります。
診断の結果、「移住・住みかえ支援機構(JTI)」が耐震補強などの必要があると判断すれば、家主負担で改修工事が必要です。耐震改修費は木造2階建て住宅の場合、100万円以上かかります。
また、賃貸に出す前には住宅の修繕費や清掃費も必要です。壁紙や畳の交換だけで数十万円、さらに水回りや配管工事が必要になると数百万円かかるケースもあります。
「機構住みかえ支援ローン」を利用するにあたって、住宅を貸せる状態にするための初期費用がかかることを把握しておきましょう。
デメリット:賃料から手数料が引かれる
「マイホーム借上げ制度」の賃料は、「移住・住みかえ支援機構(JTI)」が、地域の相場を考慮して設定します。しかし、その全額がオーナーに入る訳ではありません。
JTIでは、賃料のうち15%を協賛事業者への支払い(5%)や、空室時でも家賃を支払ってくれる保証準備積立(10%)のために使用します。そのため、オーナーの手元に入ってくるお金は賃料の85%となります。
また、空室の際にも賃料が入る「空室時保証賃料」もありますが、決定家賃より低い金額に設定されます。
一般的に住宅を賃貸に出す場合、管理を委託する不動産業者に対して支払う管理手数料は3~5%が相場であることを考えると、保証が充実している一方で差し引かれる費用が割高になる点がデメリットです。
「機構住みかえ支援ローン」の利用の流れ
「機構住みかえ支援ローン」を利用して住宅を建設する場合、手続きの流れは以下のとおりです。
1. 「移住・住みかえ支援機構(JTI)」へ事前相談
2. JTIへ「マイホーム借上げ制度」を申し込み
3. 住み替え前の住宅についての建物診断の実施
4. 金融機関に「機構住みかえ支援ローン」を申し込み(ハウジングライフプランナーによる説明を受ける)
5. 審査結果の通知受領
6. 住み替える住宅の設計審査の申請
7. 着工・中間現場検査の申請
8. 竣工・竣工現場検査の申請
9. 「マイホーム借上げ」制度の契約手続き
10. 住宅ローン契約
「機構住みかえ支援ローン」はJTIの「マイホーム借上げ制度」の利用が前提のため、JTIへの申し込みを先に行います。
住み替え先に新たに住宅を建設する場合、金融機関への申し込み時には、「長期固定金利型住宅ローン」や「賃料査定書」、所得を証明する書類などが必要となります。
また、取扱金融機関によって必要書類が異なる場合があります。住民票、建築確認通知書の写しなどの提出を求められる場合があるので、取扱金融機関へ事前の確認が必要です。
新築住宅を購入する場合や中古住宅を購入する場合も、事前に金融機関へ確認しましょう。
住み替え時にも安心のフラット35の制度をうまく活用しよう
「一生に一度の買い物」といわれる住宅購入ですが、ローン返済は数十年という長期間に渡ります。その間、子どもの独立や転居など生活やライフスタイルの変化によって住宅を住み替えることを検討する機会も出てきます。
住宅ローンが残る家からの住み替えは、一般的にはローンの一括返済や十分な資金の準備など、まとまった資金が必要になります。「フラット35」の商品である「機構住みかえ支援ローン」が利用できれば、現在の住宅を第三者に貸し出しての住み替えが可能となります。
ただし、住み替え後には、新旧二つの住宅ローンを返済する必要があります。利用は慎重に検討しましょう。
松田 聡子(まつだ さとこ)/ファイナンシャルプランナー
群馬FP事務所代表。日本FP協会認定CFP®・DCアドバイザー・証券外務員2種。ITエンジニア、国内生命保険会社を経て2009年に独立系FPとして開業。
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